2017/04/18 宇宙クジラ

今朝、世界を震撼させるニュースが舞い込んだ。

食卓にはコーヒーと焼けたパンの香りが漂っていて、その時父は朝刊を広げ、私と弟はワイドショーを眺めていた。

キャスターは興奮した様子で何度も同じことを話している。

宇宙クジラを異星人が捕まえた、と。

きっと世界中の誰も信じないだろう。宇宙クジラではなく、座礁クジラの間違いに違いない、と思うはずだ。

座礁クジラは宇宙に住む最もポピュラーなクジラで、近くの大気圏を泳いでいるようだ。地上近くを泳いでいるため、空を見上げると姿を観察できる日もあるのだ。

座礁クジラは名前の通り、よく大地に座礁してしまう。好奇心が強く、山や森に興味があると研究で言われているけど、クジラと話したことがないので、よく知らない。

座礁クジラが大地に座礁したら、みんな大慌てでロケットを準備するが、クジラの巨体を打ち上げるのも一苦労だそうだ。目の前にいる父も、打ち上げの手伝いをしたことがあるらしい。きっとなんの役にも立たなかったに違いない。

私も弟も同じ考えで、宇宙クジラのはずがない、と言った。

宇宙クジラは神話の存在で実在するはずがないからだ。無を喰らい、宇宙を広げる存在。飲み込んだ無を噴出し、生命の住める惑星を、輝く星々を生み出した、神なる存在なのだ。

しかも、宇宙クジラブラックホールと同じで光を反射せず姿を見ることができないし、質量も途方もないはずだ。捕まえるなんて夢物語にもほどがある。

 

テレビカメラは宇宙クジラに近づく。宇宙の中に溶け込んだクジラはもちろん見ることができない。

しかし、私は興奮していた。信じられない気持ちは強いが、神話の存在に宇宙で初めて干渉できたことに。

ニュースを聞いていると、地球という星の生物の功績らしい。確か1000光年離れた青くて美しい惑星だったと思う。名前しか知らない田舎の星だが、天体観測が趣味な人たちの中では美しいことで有名だ。

テレビを見つめると、一瞬ギョロリとした瞳がこちらを見たような気がした。

心臓を握られたかのように、ドキドキが止まらなくなる。画面は相変わらず真っ暗だ。けれど、確かに宇宙クジラはそこにいる。そう感じた。

 

テレビ画面が爆ぜた。

赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫、色という色が一気に噴出する。グルグルと混ざり合い銀河が作られていく。巨大な、巨大すぎる光のスペクタルが私の眼の前で作られていく。

それはあまりにも美しく私は呼吸することができなかった。

 

地球はきっと銀河に飲み込まれてしまい、なくなってしまっただろう。きれいな惑星だったのに残念だ。

しかし、私は見知らぬ地球人が大いなる犠牲を払って、宇宙誕生を見せてくれたことに感謝している。あんなに美しい景色は一生見ることができないだろう。

地球の光はなくなるまでの1000年間も、私の星に届くのだ。私は毎日その光を見て地球の美しさと偉大な功績を思い出すだろう。

唯一残念なのは、銀河誕生の瞬間をもう一度味わえる1000年後の4月18日に私はもう、死んでいることだ。

こんな世界なくなってしまえ!

こんな世界なくなってしまえ!

あたしは叫びたかった。そんな思いをしているのはあたしだけじゃないはずだ。

今朝、あたしは満員電車に閉じ込められてしまった。冗談みたいにギュウギュウに詰め込まれた人間たちは、みんな苦しそうな顔で我慢していた。こんな思いをしてまで通勤しなきゃいけないなんて、毎日げんなりしてしまう。

女性の声でアナウンスが流れる。

「前を走る電車のドアに荷物が引き込まれた影響で、この電車も遅れております」

なにが遅れております、だ!どっかの知らない馬鹿のせいで、あたしは知らない禿げたおっさんと密着する羽目になっている。どっかの知らない馬鹿のせいで、あたしは不愉快な思いをさせられる。酸素容量も限られているのに、苦しいったらありゃしない。

毎日4光年の距離をあたしたち地球人は通う。爆発的に進歩した地球の技術は宇宙に軽々と進出できるようになった。初めて宇宙生物にあった時は感動的だったと聴く。けれど、喜びは一瞬で無に帰した。地球人が初めてあった宇宙生物は考えられないほど高い技術を持っていた。

私たちがようやく達成した宇宙科学を、ザリガニみたいな見た目の彼らは2億年前に完成させていた。

ザリガニは地球のために一肌脱ぐと言い、多くのものを与えてくれた。この空飛ぶ電車もその一つだ。4光年もの距離をたった90分で進むのだ。彼らは協力的で優しかった。彼らと出会ってからの10年間は目まぐるしい発展を遂げた。

しかし、うまい話はないし異星ザリガニもお人好しではなかった。

地球にはザリガニの技術を支えるリソースがそれほど存在しなかった。彼らは知っていた。ザリガニがもたらした技術に不可欠なケリョンヌンサンが地球には全然ないことを。既に地球の文明を維持するにはザリガニの技術とケリョンヌンサンが不可欠だった。過去に戻ることなんてできやしない。

だからあたしたちはザリガニの星に毎日通い働く。働けばいいことがあると信じて。

安い給料でケリョンヌンサンを得るために、今日の晩御飯を食べるために、精一杯働くのだ。

ザリガニは数だけが多い人類のことをドリュサリマンニルと呼び、奴隷のように扱っている。

でも、そんなこと知ったこっちゃない。地球では生きていけないのだ。

電車の酸素が薄れて、意識が遠のく。

こんな世界なくなってしまえ!地球だけで完結すればよかったのに。

暗闇に浮かぶ銀河が遠くで瞬いた。

電車はまだ動かない。